テレビデザインの基礎知識 19
セットアップ&輝度スケール
(ブラックレベル・白飛び・黒つぶれ)

 数回にわたり、映像信号のレベルについて解説していますが、実際に映像制作をする際に注意しなければならない項目が あと2つあります。「セットアップ」という概念と「輝度スケール」という概念です。両者は映像の明るさに直接関係してきます。
 さらに両者は映像制作する機器によって違いがあり、設定によって変更できる場合もあります。
 最近ではノンリニア機器を使用して映像制作をするようになってきました。デザイナーとして意図した「明るさや色」を表現するためにも、自分の制作環境がどういった仕様で映像信号を扱っているのかを知っておく必要があります。

代表的なノンリニア機器
Media100i

 セットアップレベル

 セットアップとは黒信号レベルとブランキングレベルとの「信号の差」のことを言います。(セットアップのことをペデスタルとも言います)
 重要なのは同じNTSC方式を採用している国でも、黒信号のレベルが違うということです。アメリカの黒レベルは 7.5 IRE、日本は 0 IREです。黒レベルが「7.5 IRE」の状態を「7.5 IRE Setup」と言います。
 ノンリニア系の映像機器にはこのセットアップ値を設定画面で選択できるものが多いので、各自で確認してみてください。

※白レベルに関してはアメリカも日本も「100 IRE」で同じです。

 輝度スケール

 映像信号は「黒が0%で、白が100%」と単純に決まっているわけではありません。波形モニタを見ればわかるように、0%を下まわる黒も 100%を超える白も実際には存在します。しかしながら、超えるといっても限度があり、あまりに基準を超えた信号は制御信号(シンクやバースト)に影響を与える危険があるので好ましくありません。
 こういった複雑な状況のため、映像信号をコンピュータで入出力する際の「変換方式」は大きくわけて2つの方式が存在しています。これらも機器の仕様によって異なるので各自で確認してください。

※ムービーを保存する際のコーデックによっても輝度スケールの考え方が異なるので注意が必要です。
※最近のハードウェアでは、設定により どちらの方式も対応できるものもあります。
※輝度レベルの上限をどこまで超えても良いかは 局やプロダクションによって扱いが異なります。
 各自で納品先に確認してください。

ビデオ信号を最大限に利用できるように変換するタイプです。
「ITU-R BT.601準拠」タイプとも言われています。
RGB側で0〜255はビデオ側で「-7.5〜110IRE」に相当します。
この方式を「SMTPE Matrix Range」と呼ぶ場合もあります 。

<利点>
・ビデオ信号をRGBに変換する際にロスがない。
 (ビデオ信号をフルレンジでPCにキャプチャ可能)
・信号変換を繰り返しても画質の変化を最小限に抑えられる。
 (取込データをテープに戻しても元の状態を再現可能)
・コンピュータ上で作成したカラーバーを出力可能。

<欠点>
・CGなどを何も考えずに出力すると危険な場合がある。
 (NTSCの基準を大幅に超えた信号になる場合がある)
 (白飛びや黒つぶれの原因になる)
・最終的な画像の見た目をコンピュータ上で確認しにくい。
 (コントラストの調整をPC画面上でしにくい)

このタイプはRGBの0〜255がビデオ側で「0〜100IRE」に相当します。
静止画を出力するタイプのボードに採用されていることが多いです。
この方式を「CGR Matrix Range」と呼ぶ場合もあります。

<利点>
・CGなどを何も考えずに出力しても安全。
 (NTSCの基準を超えることはない)
 (白飛びや黒つぶれがおこることはない)
・コンピュータ上で見た目と最終的な画像が近くなる。
 (コントラストの調整がPC画面上で可能)

<欠点>
・ビデオ信号をRGBに変換する際にロスがでる。
 (PC側に入力する際にビデオ信号の一部が欠落)
・信号変換を繰り返すと画質が変化してしまう。
 (取込データをテープに戻しても元の状態にならない)
・コンピュータ上でNTSC規格のカラーバーを作成できない。

<それでは、どうすれば良いのか>
どちらの方式にも利点と欠点がありますが、私としては「ITU-R BT.601準拠」のタイプをオススメします。こちらのタイプの欠点は解決方法があるからです。

〜欠点の解決方法〜
【欠点1】CGなどを何も考えずに出力すると危険な場合がある。
 → NTSCの基準を超えないように対処して出力する。
  (…具体的な方法は次の項目「AfterEffectsでの対応方法」で解説)
【欠点2】最終的な画像の見た目をコンピュータ上で確認しにくい。
 →コンピュータ上だけでなく、NTSCモニタでも確認するような習慣を身に付ける。

NTSCの基準に合うようにRGBの信号を調整するには
「エフェクト>調整>レベル」を使用します。
「0〜255」のRGB成分を「16〜235」にするためには
   黒を出力;16  白を出力:235
と設定します。これで輝度に関してはNTSCの基準をクリアしたことになります。クロマ成分(色の濃さ)に関しては波形モニタを見ながら確認するのがベストです。
 しかしながら、この方法を適用するとコントラストが落ち、メリハリのない映像になる傾向にあります。各自で映像の内容に応じて 臨機応変に対応してください。

※エフェクトパレットの単位が「0〜255」ではなく「0〜100%」になっている場合は、情報パレットのミニメニューで「8-bpc(0-255)」もしくは「自動カラー表示」を選択してください。
●レベル補正

SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers):http://www.smpte.org/
ITU(International Telecomunication Union):http://www.itu.int/home/index.html